認知症を患う家族を支える介護者にとって、適切な支援サービスの活用は生活の質を大きく左右する重要な要素です。2025年には認知症高齢者数が約700万人に達すると予想される中、様々な支援制度やサービスが整備されています。しかし、多くの家族が「どのようなサービスがあるのか分からない」「費用がどのくらいかかるのか不安」「どこに相談すれば良いのか分からない」といった悩みを抱えているのが現実です。本記事では、認知症家族支援サービスの全体像から具体的な利用方法、費用、申請手続きまで、実際に役立つ情報を分かりやすく解説します。地域包括支援センターの活用方法から最新の支援制度まで、認知症とともに生きる家族が安心して暮らせるための実践的なガイドとしてお役立てください。
Q1: 認知症家族支援サービスにはどのような種類があり、どこに相談すればよいのでしょうか？
認知症家族支援サービスは大きく分けて在宅サービス、通所サービス、短期入所サービス、施設サービス、相談支援サービスの5つのカテゴリーがあります。
在宅サービスでは、訪問介護や訪問看護が中心となります。ヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行うほか、認知症の方に対する見守りや声かけ、外出同行などの支援も提供されます。訪問看護では、看護師が健康状態の観察、服薬管理、医療機器の管理を行い、医師の指示に基づいて医療的ケアを提供します。
通所サービスには、通所介護（デイサービス）と通所リハビリテーション（デイケア）があります。認知症デイケアでは、医療機関や介護施設で認知症の症状に応じた専門的なケアやリハビリテーションを受けることができ、認知機能の維持・改善を図ります。
短期入所サービス（ショートステイ）は、要介護者が短期間施設に宿泊し、介護サービスを受けるもので、家族の介護負担軽減や緊急時の対応に効果的です。利用期間は連続30日まで、年間利用日数にも上限があります。
相談窓口として最も重要なのが地域包括支援センターです。全国で5,451か所設置されており、高齢者に関わることなら何でも相談できる総合相談窓口として機能しています。「最近親の物忘れが激しく、認知症かもしれない」「要介護認定の受け方が分からない」といった相談に無料で対応しています。
その他の専門相談窓口として、認知症疾患医療センター（全国約500か所）では専門医療相談や鑑別診断を実施し、認知症初期集中支援チームでは早期診断・早期対応に向けた支援を行います。認知症地域支援推進員は医療機関と介護サービス事業所をつなぐコーディネーターとして活動しています。
まず最初に相談すべきは、お住まいの地域の地域包括支援センターです。高齢者本人がどの地域に住んでいるかによって担当センターが決まるため、自治体に問い合わせて担当センターの情報を入手しましょう。
Q2: 地域包括支援センターとは何ですか？認知症家族はどのように活用できるのでしょうか？
地域包括支援センターは、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町村が設置する総合相談窓口です。介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える重要な役割を担っており、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的としています。
主な業務内容として、総合相談支援、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行います。認知症家族にとって特に重要なのは、医療と介護の両方を必要とする高齢者のための様々な機関との連携です。在宅療養や認知症に関する専門的な相談に応じ、適切なサービスや専門機関への橋渡しを行います。
具体的な相談内容として、「最近親の物忘れが激しく、認知症かもしれないと思っている」「要介護認定はどうやって受けたらいい？」「介護保険を使って家を改修したい」「家族の介護負担が重く、どのような支援があるか知りたい」といった相談に対応しています。
利用方法は非常にシンプルです。高齢者本人がどの地域に住んでいるかによって担当センターが決まっているため、まず地域の自治体へ問い合わせ、自分の担当センターの情報を入手します。相談は無料で、電話相談、来所相談、必要に応じて自宅への訪問相談も行っています。
2025年の地域包括ケアシステムでは、団塊の世代が75歳以上となることを踏まえ、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制の構築を目指しています。
地域包括支援センターの役割は今後さらに重要になり、身寄りのない高齢者への支援や家族介護者支援の充実などの新たな課題への対応も期待されています。地域住民の複雑化・複合化したニーズへの対応、認知症高齢者の家族を含めた家族介護者支援の充実等により、地域包括支援センターが担う業務は増大傾向にあります。
認知症家族にとって地域包括支援センターは、最初の相談窓口として、また継続的な支援のコーディネーターとして、非常に重要な存在です。困ったときはまず地域包括支援センターに相談することで、適切な支援への道筋が見えてきます。
Q3: レスパイトケアやデイサービスの利用方法と費用はどのくらいかかりますか？
レスパイトケアは、介護者をケアするためのサービスのことで、介護をおこなう家族が一時的に介護から離れ、休息やリフレッシュをするために実施される介護サービスです。2025年の最新情報として、認知症患者数の急増が予想される中、レスパイトサービスは単なる支援サービスではなく、持続可能な介護を実現するための必要不可欠なサービスとして位置づけられています。
在宅介護では多くの場合、介護者である家族に身体的・精神的負担がかかり、頼れる人や場所が分からずに無理をしてしまい体調を崩してしまう人が少なくありません。身体介助や見守りでの肉体的・精神的な疲れから心身のバランスを崩す「介護うつ」や、離職を余儀なくされる「介護離職」など、介護疲れはさまざまな社会問題を引き起こします。
レスパイトケアの具体的なサービスには、ショートステイ（短期入所生活介護）、デイサービス、デイケア、訪問介護などがあります。ショートステイでは連続30日まで施設に宿泊でき、家族が完全に介護から離れることができます。
認知症デイケアサービスは、認知症の方を対象とした通所型のサービスで、医療機関や介護施設で日中の一定時間、認知症の症状に応じた専門的なケアやリハビリテーションを受けることができます。利用者は自宅から施設に通い、様々なプログラムに参加しながら認知機能の維持・改善を図ります。
費用について、認知症デイケアの利用料金は介護保険制度に基づく基本料金と各施設が独自に設定する加算料金で構成されています。介護保険制度における利用者負担割合は、所得に応じて1割から3割まで設定されているため、実際の支払額は個々の状況により変動します。
通所介護（デイサービス）の費用例では、要介護度や利用時間によって基本料金が決まります。例えば、要介護2の方が7時間以上8時間未満のサービスを利用した場合、基本料金は約750円程度（1割負担の場合）となります。これに送迎費用、食事代、その他のサービス費が加算されます。
ショートステイの費用は、施設の種類や要介護度によって異なりますが、介護保険適用により1日あたり数千円から1万円程度の自己負担で利用できます。食費や居住費は別途必要ですが、介護保険負担限度額認定制度により、所得や資産が一定額以下の方は負担が軽減されます。
利用方法は、まず要介護認定を受けることから始まります。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、個人の状況に応じたケアプランを作成します。サービス利用前には、施設の見学や体験利用を行うことで、本人に適したサービスを選択できます。介護者の心身の健康を維持することが、結果的に要介護者にとっても良い影響をもたらすという考え方が広がっており、無理のない介護を実現するためにレスパイトケアの活用が強く推奨されています。
Q4: 認知症家族が利用できる費用軽減制度や経済的支援にはどのようなものがありますか？
認知症家族への経済的支援は、介護保険制度の軽減措置とその他の公的支援制度の2つの柱で構成されています。これらの制度を組み合わせることで、大幅な負担軽減が可能となります。
高額介護サービス費制度は、月の介護サービス利用料が上限額を超えた場合に、超過分が後から支給される制度です。所得段階に応じて上限額が設定されており、一般的な所得の方では月額44,400円が上限となります。これを超えた分は申請により払い戻されるため、高額な介護費用の家計への影響を軽減できます。
介護保険負担限度額認定制度（補足給付）は、所得や資産が一定額以下の方を対象に、施設利用時の食費・居住費を軽減する制度です。対象となる方は申請により、食費・居住費の負担限度額が設定され、差額は介護保険から給付されます。この制度により、施設利用時の経済的負担を大幅に軽減することが可能です。
市町村民税非課税世帯に対する社会福祉法人等による利用者負担軽減制度では、社会福祉法人が運営する介護サービスを利用する場合、利用者負担額の一部が軽減されます。軽減率は25％または50％で、対象サービスや軽減率は市町村により異なります。
高額医療・高額介護合算療養費制度では、医療費と介護費の両方が高額になった場合、年間の自己負担限度額を超えた分が支給されます。認知症の方は医療と介護の両方を利用することが多いため、この制度による負担軽減効果は大きくなります。
障害者手帳の取得による支援も重要です。認知症により日常生活に著しい制限を受ける場合、精神障害者保健福祉手帳を取得することで、税制上の優遇措置、公共料金の割引、交通機関の運賃割引などを受けることができます。
自立支援医療（精神通院医療）制度では、認知症で通院治療している場合、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費の自己負担が1割に軽減されます。世帯の所得等に応じて自己負担額の上限が定められており、継続的な医療費の負担軽減に効果的です。
成年後見制度利用支援事業では、経済的に困難な方が成年後見制度を利用する際の費用助成を行います。認知症により判断能力が不十分になった方の権利を守るための重要な制度で、申立費用や後見人報酬の一部または全部が助成されます。
就労支援関連では、働きながら介護を行う家族への介護休業給付金があります。要介護状態の家族を介護するために取得した介護休業中に、休業前の賃金の約67％が支給されます。最大93日まで分割して取得でき、介護による経済的負担の軽減に役立ちます。
これらの制度の多くは申請が必要です。地域包括支援センターやケアマネジャー、自治体の福祉課などで詳細な情報を入手し、適切な手続きを行うことで、経済的負担を大幅に軽減することができます。複数の制度を組み合わせることで、より効果的な負担軽減が実現できるため、専門家と相談しながら最適な組み合わせを検討することが重要です。
Q5: 若年性認知症の場合、高齢者とは異なる特別な支援制度はありますか？
若年性認知症（65歳未満で発症する認知症）については、高齢者の認知症とは異なる特別な支援制度が整備されています。現役で働いている場合が多いため、就労継続や社会復帰に関する支援が特に重要な要素となります。
医療費支援として、自立支援医療（精神通院医療）により、認知症で通院治療している場合、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費の自己負担が1割に軽減されます。世帯の所得や疾病等に応じて自己負担額の上限が定められており、若年性認知症の方の経済的負担を大幅に軽減する重要な制度です。
経済的支援では、障害年金制度が重要な役割を果たします。障害や病気によって生活や仕事に支障が出た場合に受け取ることができる公的年金で、障害厚生年金の場合には「1級～軽度の障害まで」と受給対象の範囲が広くなっています。若年性認知症の方にとって、就労不能となった場合の重要な経済的支援となります。
精神障害者保健福祉手帳の取得により、国および自治体の障害者のための制度が利用できます。自立支援医療以外にも医療費の助成を受けられる自治体もあり、税制上の優遇措置、公共料金の割引、交通機関の運賃割引なども利用可能になります。
就労支援では、現在の職場での勤務時間の見直しや配置転換での仕事内容の見直しによる就労継続、障害者雇用枠を活用した就労継続などに努めることが重要です。企業の理解と協力により、症状の進行に応じて段階的に業務内容を調整することで、より長期間の就労継続が可能になります。
若年性認知症の人が退職した場合の受け皿として就労継続支援事業所（A型・B型）があります。特に精神障害者を主として受け入れている事業所は、身体障害や知的障害の人が中心の事業所と比較して、認知症の人との共通点がある場合が多く、若年性認知症の人にとって最も利用しやすいと考えられます。
若年性認知症支援コーディネーターは、支援機関や制度についてワンストップでご案内し、専門性の高い就労支援として、職業評価、ジョブコーチ支援、職場復帰支援等を行います。個別の状況に応じたきめ細かな支援により、可能な限りの社会参加を実現することを目指しています。
傷病手当金制度では、若年性認知症などの病気や業務外のけが等で仕事を休み、給料がもらえないときに、その間の生活保障するための現金給付を受けることができます。これにより、治療に専念できる環境が確保されます。
家族への配慮として、若年性認知症の場合、本人だけでなく配偶者や子どもなど家族への影響が特に大きくなります。教育費や住宅ローンなどの経済的負担が重い時期であることが多く、家族全体への包括的な支援が必要です。
家族会や支援グループでは、同じような状況にある家族同士の情報交換や精神的支援が行われています。若年性認知症特有の課題について理解を深め、具体的な対応方法を学ぶことができます。
子どもへの影響に対しては、年齢に応じた説明と心理的サポートが重要です。学校や地域のカウンセリング機関との連携により、子どもの健全な成長を支援する体制が整備されています。
若年性認知症への支援は、医療、福祉、就労、教育など多分野にわたる包括的なアプローチが必要です。若年性認知症支援コーディネーターを中心とした多職種連携により、個別のニーズに応じた支援計画が策定され、切れ目のない支援を提供する体制が整備されています。
