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地域包括ケアシステムの構築における課題と自治体の先進的取り組み事例を徹底解説

わが国は、世界に類を見ない速度で高齢化が進展しています。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるいわゆる「2025年問題」を迎え、医療や介護のニーズが急激に増大することが見込まれています。こうした状況に対応するため、全国の自治体では地域包括ケアシステムの構築が急務となっています。高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らし続けられる社会を実現するには、医療、介護、予防、住まい、生活支援という5つの要素を一体的に提供する仕組みが欠かせません。しかし、その構築には多くの課題が立ちはだかっています。都市部と地方では抱える問題が異なり、医療と介護の連携、人材確保、財源の確保など、乗り越えるべき壁は決して低くありません。それでも各自治体は、地域の特性に応じた創意工夫を凝らし、先駆的な取り組みを展開しています。本記事では、地域包括ケアシステムの構築における課題と、全国の自治体が実践している具体的な取り組み事例について、詳しく解説していきます。

地域包括ケアシステムとは何か

地域包括ケアシステムとは、日常生活圏域(おおむね30分以内に必要なサービスが提供される範囲)を単位として、医療、介護、予防、住まい、生活支援のサービスが切れ目なく提供される体制のことです。このシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に構築が進められており、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう設計されています。

地域包括ケアシステムを構成する5つの要素は、相互に連携しながら高齢者の生活を支えます。医療の分野では、日常の医療だけでなく、急性期から在宅医療、リハビリテーション、看取りまで切れ目のないサービス提供が求められます。介護においては、在宅サービス、施設・居住系サービスなど、本人の選択と本人・家族の心構えに基づくサービス提供が重要です。予防では、要介護状態になることを防ぐための取り組みが展開されます。住まいでは、高齢者が安心して暮らせる住環境の整備が進められます。そして生活支援では、日常生活を支える多様なサービスが提供されます。

このシステムの概念は、1980年代に現在の広島県尾道市(当時は御調町)の取り組みが起源とされています。御調町では、老人保健施設を中核とし、町立病院や診療所、特別養護老人ホームなどを連携させることで、医療と福祉の一体的なサービス提供を実現しました。この先駆的な取り組みが、現在の地域包括ケアシステムの基本モデルとなっており、全国各地での展開の礎となっています。

地域包括ケアシステム構築が求められる背景

わが国の高齢化は深刻な状況にあります。2025年には65歳以上の高齢者が総人口の30パーセントを超えると予測されており、医療・介護のニーズが急増することが見込まれています。さらに、2025年には認知症の人が約700万人に達すると予測されており、65歳以上の高齢者の約5人に1人という高い割合になることが見込まれています。

この深刻な高齢化社会の到来に備え、全国の自治体が地域の特性に応じた地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいます。しかし、高齢化の進展状況は地域によって大きく異なります。都市部では人口の急激な高齢化が進み、介護施設の不足や医療・介護人材の確保が大きな課題となっています。一方、町村部では人口減少と高齢化が同時進行し、医療機関や介護事業所の経営が困難になるといった問題が発生しています。

また、単身世帯等が増加し、支援を必要とする軽度の高齢者が増加する中、生活支援の必要性が増加しています。従来の公的サービスだけでは対応しきれない多様なニーズに対応するため、ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様な主体による生活支援・介護予防サービスの提供が求められています。地域住民やさまざまな組織が協力して支え合う仕組みづくりが、これまで以上に重要になっているのです。

地域包括ケアシステム構築における主要な課題

地域包括ケアシステムの構築にあたっては、多くの課題が存在します。まず、地域包括ケアシステムは保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。画一的なモデルを適用するのではなく、それぞれの地域が抱える固有の課題に向き合い、地域資源を活かした独自の解決策を見出すことが求められます。

地域による課題の違い

都市部と町村部では、抱える課題が大きく異なります。都市部では人口密度の高さを活かしたサービスネットワークの構築が可能である一方、急激な高齢者人口の増加に対応するサービス量の確保が課題となります。多様な住民が暮らす都市部では、きめ細かなニーズへの対応も求められます。一方、町村部では住民同士の強い絆やテクノロジーの活用が重要な役割を果たします。しかし、人口減少の中でサービス提供体制をいかに維持するかが大きな課題となっています。

医療と介護の連携

医療と介護の連携も大きな課題の一つです。医療機関と介護事業所では、それぞれ異なる制度や文化のもとで運営されており、情報共有や連携体制の構築が容易ではありません。医療と介護では使用する専門用語や記録の方式が異なり、また制度上の違いもあることから、スムーズな情報共有が困難な場合があります。患者・利用者の情報を適切に共有し、切れ目のないサービスを提供するためには、ICTの活用や多職種連携の仕組みづくりが不可欠です。

認知症高齢者への対応

認知症高齢者への対応も重要な課題です。2025年には認知症の人が約700万人に達すると予測される中、認知症の人が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる環境整備が求められています。認知症の早期発見・早期対応のため、認知症初期集中支援チームの設置認知症地域支援推進員の配置、認知症カフェの運営支援など、認知症の人とその家族を支える体制づくりが進められています。また、認知症サポーターの養成により、地域住民の認知症に対する理解を深める取り組みも広がっています。

介護人材の確保と育成

介護人材の確保と育成も深刻な課題です。少子高齢化が進む中、介護職員の需要は増加する一方、労働条件の厳しさや待遇の問題から人材の確保が困難になっています。この課題に対し、処遇改善による人材の定着促進、外国人介護人材の受け入れ、介護ロボットやICTの活用による業務効率化、多様な働き方の推進など、さまざまな取り組みが進められています。また、医療介護従事者の専門性を高めるための継続的な研修体制の整備も重要です。

財源の確保

財源の確保も大きな課題です。高齢化の進展に伴い、医療費・介護費は増加の一途をたどっており、持続可能な制度運営のためには、効率的なサービス提供と財源確保の両立が求められています。介護予防や健康づくりの推進により、要介護状態になることを防ぎ、医療・介護費の抑制を図る取り組みも重要です。予防に重点を置くことで、長期的には医療費・介護費の抑制につながることが期待されています。

地域住民の意識改革

地域住民の意識改革も必要です。地域包括ケアシステムは、行政や専門職だけでなく、地域住民一人ひとりが主体的に関わることで実現されます。自助・互助・共助・公助のバランスのとれた支え合いの仕組みづくりには、住民の理解と協力が不可欠です。住民が単なるサービスの受け手ではなく、地域づくりの担い手として主体的に関わることで、真の意味での地域包括ケアシステムが実現されます。

医療介護連携における具体的な課題と対応策

団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれており、地域包括ケアシステムを実現するためにも、医療機関が適正に配置されている必要があります。一方、地域に住む方が安心して生活するためには医療体制の充実だけでは不十分で、医療と介護の連携をはじめとした包括的な支援が欠かせません。

情報共有システムの構築

医療と介護の連携を推進するためには、医療機関と介護事業所の間での情報共有が重要な課題となっています。この課題に対し、多くの自治体では医療介護連携情報システムの構築を進めています。ICTを活用したクラウド型の情報共有システムにより、患者・利用者の基本情報、服薬情報、ケアプラン、医療処置の内容などを多職種間でリアルタイムに共有できる環境が整備されつつあります。こうしたシステムの導入により、緊急時の迅速な対応や、サービス提供の重複防止、多職種間のコミュニケーション円滑化などの効果が期待されています。

在宅医療の推進

在宅医療の推進も重要な課題です。病院から在宅へという医療提供の流れの中で、24時間365日のサービス提供体制を整備し、在宅生活の継続を支援することが求められています。在宅医療を担う医師や看護師、薬剤師などの人材確保と育成が急務となっています。また、在宅医療を支える訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問歯科診療、訪問薬剤管理指導などのサービスを、地域の実情に応じて整備していく必要があります。

主治医・副主治医制度を構築し、医療・看護・介護の連携体制を確立することで、患者が安心して在宅療養を続けられる環境を整備している自治体もあります。一人の医師に負担が集中することを避け、複数の医師が連携することで、持続可能な在宅医療提供体制が実現されています。

看取り体制の整備

看取りに対する体制整備も重要な課題です。多くの高齢者が自宅での最期を希望していますが、実際には病院で亡くなるケースが多いのが現状です。在宅での看取りを実現するためには、本人・家族の意思を尊重した意思決定支援、医療・介護職による24時間対応可能な体制、家族への精神的サポートなど、多面的な支援が必要です。

アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)の普及により、本人の意思を尊重した最期のあり方について、事前に話し合う取り組みも広がっています。元気なうちから、もしものときの医療やケアについて、本人や家族、医療・ケアチームが繰り返し話し合うことで、本人の価値観や希望に沿った人生の最終段階の医療・ケアが実現されます。

多職種連携の推進

多職種連携の推進には、職種間の相互理解が不可欠です。医師、看護師、薬剤師、理学療法士作業療法士言語聴覚士介護福祉士、ケアマネジャー、社会福祉士など、多様な専門職が連携してケアを提供するためには、それぞれの職種の役割や専門性を理解し、尊重し合うことが重要です。

多職種合同の研修会や事例検討会を開催し、顔の見える関係づくりを進めることで、円滑な連携が実現されています。定期的な多職種連携会議の開催により、専門職間の顔の見える関係づくりを推進し、情報共有の仕組みを確立している自治体もあります。こうした取り組みにより、専門職間のコミュニケーションが円滑になり、患者・利用者により質の高いサービスが提供されています。

地域ケア会議の活用

地域ケア会議は、医療介護連携を推進する重要な場となっています。個別事例の検討を通じて、地域の課題を発見し、解決策を検討することで、地域全体のケアの質の向上につながっています。地域ケア会議には、医療・介護の専門職だけでなく、民生委員や地域住民代表なども参加し、多様な視点から議論が行われています。個別ケースの積み重ねから地域課題を抽出し、政策形成につなげていくプロセスが重要です。

薬剤管理における連携

薬剤管理における医療介護連携も重要です。高齢者は複数の医療機関を受診し、多剤併用となるケースが多く、薬剤の適正使用が課題となっています。かかりつけ薬剤師・薬局による一元的な薬剤管理、医師・薬剤師・看護師・介護職の連携による服薬支援、残薬管理などの取り組みが進められています。ポリファーマシー(多剤併用)の問題に対応し、不要な薬剤を減らすことで、副作用のリスクを低減し、患者の生活の質を向上させることができます。

救急医療との連携

救急医療と在宅医療の連携も課題となっています。在宅療養中の患者の急変時に、適切に救急医療につなぐ体制を整備するとともに、救急搬送後の病院から在宅への円滑な移行を支援する必要があります。地域の救急医療機関と在宅医療提供機関の間で、情報共有と連携の仕組みを構築することが重要です。在宅療養患者の情報を救急隊や救急医療機関と共有することで、急変時にも適切な対応が可能になります。

介護予防と生活支援における住民主体の取り組み

介護予防と生活支援における住民主体の取り組みは、地域包括ケアシステムの重要な柱となっています。2025年を目途に、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される体制の構築が目指されていますが、その実現には住民の主体的な参加が不可欠です。

互助の重要性

住民による互助の考え方が最も重要視されており、ご近所付き合いや町内会、住民ボランティア活動などが推進されています。従来の行政主導のサービス提供だけでは、多様化する高齢者のニーズに対応することは困難であり、地域住民が自ら課題を見つけ、解決に向けて行動する取り組みが各地で展開されています。

互助は、制度に基づかない住民同士の支え合いであり、自助と公助の間を埋める重要な役割を果たします。地域のつながりが希薄化する現代社会において、互助の仕組みを再構築することは、地域包括ケアシステムの成否を左右する鍵となっています。

介護予防・日常生活支援総合事業

介護予防・日常生活支援総合事業は、住民主体の取り組みを推進する重要な制度です。この事業では、従来の介護予防サービスに加え、住民主体の通いの場づくりや生活支援サービスの提供が可能となっています。住民が担い手として活動することで、高齢者の社会参加が促進されるとともに、担い手自身の介護予防にもつながるという相乗効果が生まれています。

通いの場としては、体操教室、健康教室、趣味活動のサークル、認知症カフェなど、多様な形態があります。週に1回から2回程度、地域の集会所や公民館などで開催され、高齢者が気軽に参加できる場となっています。参加者同士の交流により、孤立の防止や生きがいづくりにも貢献しています。また、通いの場での活動を通じて、参加者の心身の状態を把握し、必要に応じて専門的なサービスにつなげることも可能です。

生活支援サービス

生活支援サービスでは、住民ボランティアによる買い物支援、ゴミ出し支援、電球交換などの軽微な生活援助、移動支援、見守り活動などが行われています。これらのサービスは、専門的な介護サービスには該当しないものの、高齢者が在宅生活を継続する上で重要な支援です。住民が支え合うことで、公的サービスだけでは対応しきれないニーズに応えています。

ちょっとした困りごとへの対応が、高齢者の在宅生活の継続を可能にします。専門職による支援と住民による支え合いが適切に役割分担することで、効率的で持続可能な支援体制が構築されます。

生活支援コーディネーターの役割

生活支援コーディネーターは、住民主体の活動を支援する重要な役割を担っています。地域資源の開発、関係者のネットワーク化、ニーズと取り組みのマッチングなどを行い、住民活動が円滑に進むようサポートしています。専門的な知識を持つコーディネーターが伴走することで、住民の主体性を尊重しながら、効果的な活動が展開されています。

地域に不足しているサービスを把握し、新たなサービスの創出を支援したり、既存の活動をつなげてネットワークを構築したりすることで、地域の支え合いの仕組みが強化されます。

協議体の設置

協議体の設置も重要な取り組みです。協議体とは、地域の多様な主体が参画し、情報共有や連携強化を図る場です。自治会、NPO社会福祉法人、民間企業、医療介護関係者などが参加し、地域の課題や資源について話し合い、解決策を検討します。多様な視点から議論することで、より効果的な取り組みが生まれています。

協議体は、市町村レベルと日常生活圏域レベルの層構造で設置されることが望ましく、それぞれのレベルで適切な議論が行われることで、地域全体の支援体制が強化されます。

住民主体の活動を持続可能にするために

住民主体の活動を持続可能なものとするためには、いくつかの課題があります。まず、担い手の確保と育成です。高齢化が進む地域では、活動の担い手自身も高齢化しており、新たな担い手の確保が課題となっています。若い世代や現役世代の参加を促進するため、活動時間の工夫や、企業と連携した取り組みなども進められています。

活動の継続性も重要な課題です。住民の熱意だけでは活動を継続することは困難であり、適切な財源の確保、活動拠点の整備、専門職による支援など、行政による支援体制の整備が必要です。また、活動の成果を可視化し、住民にフィードバックすることで、モチベーションの維持につながります。

住民活動と専門的サービスの連携も重要です。住民主体の活動は、専門的なサービスと対立するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。住民活動の中で専門的な支援が必要と判断された場合に、円滑に専門職につなげる仕組みづくりが求められています。

地域共生社会の実現

地域共生社会の実現に向けた取り組みも進められています。高齢者だけでなく、障害者、子ども、生活困窮者など、地域のすべての住民が支え合う仕組みづくりが目指されています。高齢者が支えられる側だけでなく、支える側としても活躍することで、世代を超えた支え合いの地域づくりが実現されています。

縦割りの支援体制ではなく、包括的な支援体制を構築することで、複合的な課題を抱える世帯にも適切に対応できるようになります。

全国の自治体における具体的な成功事例

全国の自治体における具体的な成功事例を見ると、地域の特性に応じた多様な取り組みが展開されています。厚生労働省は全国の市区町村で行われている地域包括ケアシステム構築の取り組み事例を紹介する事例集を公開しており、50自治体の取り組みや実施上の工夫を詳しく紹介しています。

千葉県柏市の取り組み

千葉県柏市では、在宅医療の充実に向けた先進的な取り組みを展開しています。主治医・副主治医制度を構築し、医療・看護・介護の連携体制を確立することで、患者が安心して在宅療養を続けられる環境を整備しました。在宅医療に携わる診療所や訪問看護ステーションの充実に取り組み、医療人材の育成や地域医療拠点の整備を進めています。この取り組みにより、高齢者が最期まで住み慣れた地域で暮らし続けることができる体制が整いつつあります。

一人の医師に負担が集中することを避け、複数の医師が連携することで、医師の負担軽減と患者への継続的なケア提供の両立が実現されています。

熊本県上天草市の取り組み

熊本県上天草市では、離島という地理的制約を抱える中での取り組みが注目されています。高齢化率が50パーセントを超える湯島地区では、十分な介護サービスが受けられないという課題がありました。しかし、地域の住民が主体となり、高齢者が住み慣れた家で安心して暮らし続けられるよう、在宅生活の基盤づくりに本格的に取り組んでいます。

住民による検討委員会を立ち上げ、全世帯へニーズ調査を実施し、島内で11名のホームヘルパーを養成しました。専門的なサービス提供者が少ない離島において、住民自らがヘルパーとなることで、島内で必要な介護サービスを提供できる体制を構築しました。地域住民同士の支え合いを基盤とした独自のシステムを構築し、離島でも質の高い介護サービスが提供できる体制を実現しています。

埼玉県川越市の取り組み

埼玉県川越市は、認知症患者とその家族の支援に特化した取り組みを展開しています。地域包括支援センターが中心となり、認知症家族介護教室」を3回1コースで開催し、家族が認知症について正しく理解し、適切な介護方法を学べる機会を提供しています。

また、「オレンジカフェ」と称する交流会を月に1回から2回開催し、認知症の人とその家族、地域住民、専門職が気軽に集まり、情報交換や相談ができる場を設けています。これにより、認知症の人とその家族が孤立することなく、地域で支えられる環境が整備されています。認知症の人や家族が抱える悩みを共有し、専門職からのアドバイスを受けられる場は、介護負担の軽減に大きく貢献しています。

三重県四日市市の取り組み

三重県四日市市では、社会福祉法人が主導する地域密着型の取り組みが成果を上げています。社会福祉法人が主体となり、地域住民や自治会と連携することで、高齢者の生活支援拠点を新設しました。この拠点では、配食サービスや買い物支援などの日常生活支援サービスを安価に提供できる体制を構築し、経済的な負担を軽減しながら高齢者の生活を支えています。

民間の力と地域の力を結集することで、持続可能な支援体制を実現しています。社会福祉法人の専門性と地域住民の支え合いの精神が融合することで、質の高いサービスが提供されています。

鹿児島県大和村の取り組み

鹿児島県大和村では、住民主体の地域づくりが進んでいます。行政主導ではなく、住民が主体となって個別の取り組みを発案していく形で事業を展開することにより、希薄になりつつあった地域のつながりを取り戻しつつあります。

住民が協力し合い、「地域支えあいマップ」の作成を進めることで、地域のつながりが再生され、介護予防や生活支援の活動が活発化しています。地域支えあいマップとは、地域に住む高齢者や支援が必要な人の居場所を地図上に示し、誰がどのような支援を必要としているか、誰が支援を提供できるかを可視化するツールです。このマップ作りのプロセスを通じて、住民同士のコミュニケーションが深まり、希薄になりつつあった地域のつながりが取り戻されています。

東京都世田谷区の取り組み

東京都世田谷区では、都市型の地域包括ケアシステム構築に取り組んでいます。人口が多く、多様な住民が暮らす都市部特有の課題に対応するため、きめ細かな地域包括支援センターのネットワークを構築し、地域特性に応じたサービス提供を実現しています。

NPO、地域活動団体、大学などの約70の団体が連携・協力し、住民主体の地域活動が盛んに行われています。区内全域で多様な主体が参画することで、高齢者の社会参加の場づくりや生活支援サービスの提供が実現されています。地域住民が運営するサロン活動、買い物支援、移動支援など、きめ細かなサービスが展開されており、行政と住民の協働による地域づくりのモデルとなっています。

新潟県長岡市の取り組み

新潟県長岡市では、中山間地域における地域包括ケアシステムの構築に力を入れています。広大な面積と分散した集落という地理的条件の中で、移動支援サービスの充実や、ICTを活用した遠隔医療・見守りシステムの導入など、地域特性に応じた工夫を凝らしています。地域住民による支え合いの仕組みと、テクノロジーの活用を組み合わせることで、中山間地域でも安心して暮らせる環境づくりを進めています。

広い地域に点在する高齢者を支えるため、テクノロジーの活用が重要な役割を果たしています。

鳥取県南部町の取り組み

鳥取県南部町では、小規模自治体ならではの顔の見える関係性を活かした取り組みを展開しています。住民同士のつながりが強い地域特性を活かし、住民主体の見守りネットワークや生活支援サービスを構築しています。地域の実情を熟知した住民が中心となることで、きめ細かな支援が可能になっています。

小規模自治体では、住民同士が互いを知っているという強みを活かすことで、支援が必要な人を早期に発見し、適切なサービスにつなげることができます。

大分県竹田市の取り組み

大分県竹田市では、医療・介護・福祉の多職種連携に重点を置いた取り組みを進めています。定期的な多職種連携会議の開催により、専門職間の顔の見える関係づくりを推進し、情報共有の仕組みを確立しています。また、ICTを活用した医療・介護情報の共有システムを導入し、切れ目のないサービス提供を実現しています。

多職種が顔を合わせて議論することで、相互理解が深まり、連携がスムーズになります。

鳥取県境港市米子市の取り組み

鳥取県境港市米子市では、複数自治体の広域連携による地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいます。両市が連携して在宅医療・介護連携推進事業を展開し、医療機関や介護事業所の連携体制を構築しています。自治体の枠を超えた協力により、より効率的で質の高いサービス提供を実現しています。

小規模な自治体では、単独での取り組みには限界があります。広域連携により、スケールメリットを活かした効率的なサービス提供が可能になります。

成功事例から学ぶ重要なポイント

これらの成功事例に共通するのは、地域の特性や課題を的確に把握し、地域資源を最大限に活用していることです。また、行政だけでなく、医療・介護事業者、地域住民、民間企業、NPOなど、多様な主体が協働して取り組んでいることも重要なポイントです。

地域包括ケアシステムの構築においては、画一的なモデルを適用するのではなく、それぞれの地域が抱える固有の課題に向き合い、地域資源を活かした独自の解決策を見出すことが求められます。都市部では人口密度の高さを活かしたサービスネットワークの構築が可能である一方、過疎地域では住民同士の強い絆やテクノロジーの活用が重要な役割を果たします。

また、持続可能なシステムを構築するためには、専門職だけでなく、一般住民も含めた地域全体での取り組みが不可欠です。住民が単なるサービスの受け手ではなく、地域づくりの担い手として主体的に関わることで、真の意味での地域包括ケアシステムが実現されます。

地域包括支援センターの役割と機能強化

地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムの中核的な機関として、総合相談支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援などの機能を担っています。センターの機能強化と、地域住民への周知が重要な課題となっています。

地域包括支援センターは、高齢者やその家族からの相談を受け、適切なサービスや制度につなぐ窓口としての役割を果たします。また、虐待の防止や早期発見、成年後見制度の活用支援など、高齢者の権利を守る活動も行っています。ケアマネジャーへの支援を通じて、地域全体のケアマネジメントの質の向上にも貢献しています。

しかし、地域包括支援センターの認知度は必ずしも高くなく、住民への周知が課題となっています。センターの存在や役割を広く知ってもらうための広報活動や、地域での出張相談会の開催など、アウトリーチの取り組みが重要です。

住まいの確保と環境整備

住まいの確保も重要な要素です。高齢者向け住宅の整備、サービス付き高齢者向け住宅の供給促進、既存住宅のバリアフリー化支援など、高齢者が安心して暮らせる住環境の整備が進められています。

高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるためには、住まいの安全性や利便性が確保されている必要があります。段差の解消、手すりの設置、トイレや浴室の改修など、住宅のバリアフリー化により、転倒などの事故を防ぎ、自立した生活を支援します。

また、サービス付き高齢者向け住宅は、バリアフリー構造で安否確認や生活相談サービスが提供される住宅であり、介護が必要になっても住み続けられる住まいとして注目されています。

今後の展望と課題

これからの地域包括ケアシステムの構築には、行政、医療・介護事業者、地域住民、民間企業、NPOなど、多様な主体の協働が不可欠です。各自治体は、地域の実情に応じた創意工夫により、2025年以降も見据えた持続可能な地域包括ケアシステムの構築を目指して取り組みを続けています。

厚生労働省が公開している事例集では、これらの自治体の取り組みについて、背景となる地域課題、具体的な取り組み内容、実施上の工夫、成果と今後の展望などが詳しく紹介されています。他の自治体がこれらの事例を参考にしながら、自らの地域に適した取り組みを展開していくことが期待されています。

今後、2025年問題を乗り越え、さらにその先の超高齢社会においても、高齢者が安心して暮らせる地域社会を実現するためには、これまでの成功事例から学びつつ、新たな課題に対応した取り組みを継続的に進めていくことが重要です。地域包括ケアシステムは完成形があるわけではなく、社会の変化や地域のニーズに応じて、常に進化し続ける必要があります。自治体には、地域の実情を踏まえた創意工夫により、住民一人ひとりが安心して暮らせる地域づくりを推進していくことが求められています。

第8次医療計画の後期(2027年度から2029年度)に向けた在宅医療と医療・介護連携に関する議論も進められており、地域医療構想の実現に向けて、各都道府県が医療計画を策定し、病床機能の分化と連携を推進しています。急性期から回復期、慢性期、在宅医療へと切れ目のない医療提供体制を構築することで、患者が適切な医療を受けられる環境が整備されつつあります。

家族介護者への支援も今後ますます重要になります。在宅での療養・介護を継続するためには、家族介護者の負担軽減と支援が不可欠です。レスパイトケアの提供、介護技術の指導、相談支援、介護者同士の交流の場づくりなど、多面的な支援が求められています。また、ヤングケアラーや老老介護、認認介護など、新たな課題にも対応していく必要があります。

地域包括ケアシステムの構築は、一朝一夕に実現するものではありません。しかし、全国各地で展開されている先駆的な取り組みは、確実に成果を上げています。それぞれの地域が直面する課題に真摯に向き合い、地域の特性を活かした創意工夫を重ねることで、高齢者が最期まで自分らしく暮らせる地域社会の実現に近づいています。今後も、各自治体の取り組みから学び、情報を共有し、相互に高め合いながら、持続可能な地域包括ケアシステムの構築を進めていくことが期待されています。